AI Engineering from Scratchとは?中身と使い方

目次

AIを使うだけでなく、中でどう動いているかまで自分で組んでみたい。そう考えたときの候補になるのが、無料で公開されているAI Engineering from Scratchです。公式サイトの表記では528レッスン・20フェーズで、数学の実装からAIエージェントまでを1本のカリキュラムにまとめています。この記事では、公式サイトとGitHubの公開情報(2026年10月13日時点)から、中身、学習パス、始め方、向き不向きを整理します。

結論:コードが書ける人なら無料で試す価値がある。書かない人には合わない

  • 費用:無料。ライセンスはMIT。公式サイトは登録もペイウォールもないとしています
  • 規模:公式サイトの表記は528レッスン。GitHubのREADMEは523レッスン・約342時間と書いています(数字のずれは後述)
  • 向いている人:何らかの言語でコードが書けて、APIを呼ぶだけでなく仕組みまで理解したい人。READMEが前提として挙げている条件です
  • 向いていない人:コードを書かずにAIツールを業務で使いたい人。この教材の目的とずれます
  • 最初の一歩:環境構築のレッスン(約45分)だけ試して、続けられるか判断する

運営はRohit Ghumare氏と貢献者です。GitHubのスター数は執筆時点で約6.5万でした。

20フェーズの全体像

線形代数から自律エージェントまで、20のフェーズが上から下へ依存関係の順に並んでいます。まず生の数学でアルゴリズムを実装し、そのあとPyTorchなどのライブラリで同じ処理を確認する、というのが公式の説明です。

Phase名称レッスン数
0環境構築とツール12〜13
1数学の基礎22
2機械学習の基礎18〜21
3ディープラーニングの中核13
4コンピュータビジョン28
5自然言語処理29
6音声17
7Transformer詳解16
8生成AI15
9強化学習12
10LLMをゼロから—
11LLMエンジニアリング—
12マルチモーダル—
13ツールとプロトコル—
14エージェントエンジニアリング—
15自律システム—
16マルチエージェントとスウォーム—
17インフラと本番運用—
18倫理とアライメント—
19キャップストーン(総仕上げのプロジェクト)—

「12〜13」のように幅があるのは、GitHubとサイトのカタログで数字が違うためです。「—」は、執筆時点で複数の情報源の一致を確認できなかった項目です。

使う言語は、環境構築レッスンの記載によるとPythonがフェーズ1〜12、TypeScriptが13〜17、Rustが12と15〜17、Juliaが1です。

レッスン数の数字がずれている

  • 総数:公式サイトは528、GitHubのREADMEは523
  • フェーズ0:GitHubは12、サイトのカタログは13
  • フェーズ2:GitHubは18、サイトのカタログは21

どちらかが更新前の可能性がありますが、理由は確認できていません。レッスン数を引用するときは、サイトとREADMEの両方を見比べて「執筆時点」と添えるのが安全です。

1レッスンの流れ:環境構築レッスンで見る

公式によると、各レッスンは「生の数学で実装する → ライブラリと比べる → 再利用できる成果物を残す」という流れです。成果物はプロンプト、スキル、エージェント、MCPサーバーのいずれかです。

実例として、フェーズ0の「Dev Environment」を見ます。種別はBuild、前提知識なし、所要時間は約45分です。

  • 4層のスタック:システム基盤(OS、シェル、git、エディタ、GPUドライバ) → パッケージマネージャ(uv、pnpm、cargo、juliaup) → 言語ランタイム(Python 3.11以上、Node 20以上、Rust、Julia) → AIライブラリ(PyTorch、JAX、transformersなど)
  • 対応OS:macOS、Ubuntu/Debian、Windows(WSL2経由でUbuntu 24.04)
  • GPU:任意。NVIDIAならCUDA、Apple SiliconならMPSを使います。GPUがなくてもほとんどのレッスンはCPUで動くと書かれていて、ない場合はColabなどのクラウドGPUも選べます
  • 検証:verify.pyをルート別に実行します。ルートはbeginner、ml-foundations、llm-engineering、agents、mcp、agent-skills、certificationの7種類です
  • 成果物:環境を検証するverify.pyと、環境の不具合をAIアシスタントに診断させるプロンプト
  • 演習:検証スクリプトの実行と修正、コース用の仮想環境の作成、4言語それぞれのhello worldの3つ

環境構築で1つのレッスンが丸ごと使われているのは、Python、TypeScript、Rust、Juliaを横断する教材だからです。ここで詰まると先に進めないため、最初の関門になります。他のレッスンも同じ型かどうかは、全件を確認していません。

学習パスの選び方:全部やらずに済ませる

README記載の約342時間を通しで進めるのは現実的ではありません。そこで公式サイトは、取り組みたい仕事から選ぶ学習パスを用意しています(肩書きでなく仕事で選ぶ、という方針です)。

コア4領域

領域レッスン数所要時間
AIアプリケーションの構築とデプロイ12780分(約13時間)
ソフトウェアエンジニアリングの基礎13730分(約12時間)
エージェント支援エンジニアリング16900分(約15時間)
プロダクト判断と提供8550分(約9時間)

キャリアルート6つ

ルートレッスン数所要時間
顧客向けAI導入12865分(約14時間)
開発者体験と教育11905分(約15時間)
AIデータシステム11915分(約15時間)
エージェントシステム工学14865分(約14時間)
LLMプロダクト工学12885分(約15時間)
AI評価と信頼性12750分(約12時間)

この所要時間は、公式の説明ではガイド付きレッスンの時間だけです。基礎学習、自分のプロジェクト、実務経験は含まれません。実際にはこの数字より長くかかると見ておくほうが無難です。

このほか、MCPとエージェントスキルに絞った専用パスがあります。Claudeや、Model Context Protocolの認定資格(MCPA)の準備パスもありますが、公式は「Anthropic、Agentic AI Foundation、Linux Foundationとは無関係で、資格の発行や合格の保証はしない」と明記しています。

選び方の目安は次のとおりです(これは公開情報をもとにした筆者の整理です)。

  • LLMを使ったアプリを作りたい:AIアプリケーションの構築とデプロイ
  • コーディングエージェントを使いこなしたい:エージェント支援エンジニアリング
  • 開発の基礎に不安がある:ソフトウェアエンジニアリングの基礎から
  • 仕組みを一から理解したい:フェーズ0から順番に

始め方

準備は3通りあります。上から順に重くなります。

  1. サイトで読むだけ:クローン不要で、公式サイトからレッスンを開けます。進捗はブラウザにだけ保存されます
  2. 手元で動かす:リポジトリをクローンして検証スクリプトを実行します
git clone https://github.com/rohitg00/ai-engineering-from-scratch.git
cd ai-engineering-from-scratch
python3 phases/00-setup-and-tooling/01-dev-environment/code/verify.py --route beginner
  1. AIチューターを使う:Node.js、npx、python3が必要です。次のコマンドでスキルを入れると、Claude、Cursor、CodexなどSKILL.mdに対応するエージェントが、配置クイズから個別の学習パス、ターミナル上の対話レッスンまで担当します
npx skills add rohitg00/ai-engineering-from-scratch

インストール後は、エージェントに「Use start-learning to begin the course.」と伝えると始まります。

コース全体は、EPUBとPDFの書籍版(6巻)もGitHubのリリースに添付されています。

メリットとデメリット

メリット

  • 無料でMITライセンス。フォークして手元で改変できる
  • 「実装 → ライブラリと比較 → 成果物」の型が決まっていて、フレームワークに頼る前に中身を触れる
  • エージェント、MCP、スキルまで扱う。仕組みを知ったうえで日々のコーディングエージェントに生かしやすい
  • レッスンの記述はRFC、仕様書、論文などの一次資料を引用する方針

デメリットと注意点

  • 英語:確認できた範囲では、サイトもレッスンも英語です。英語の技術文書を読めることが前提になります
  • AI支援で書かれている:公式のAboutによると、AIの支援を受けて執筆し、人間がレビューしています。コードは必ず自分で動かして確かめてください
  • 完成度のばらつき:第三者の解説(agentpedia)は、クイズの正解位置の偏りや図表の表示不具合などがIssueで挙がっていると整理していて、完成した教科書として扱わないよう勧めています
  • 規模が大きい:全体で約342時間。目的を決めずに始めると途中で止まりやすい
  • 学習効果の検証がない:修了者の成果を測った独立のデータは見つかりませんでした
  • 修了証はない:資格の発行はなく、認定準備パスも非公式です

向いていないのは、次のような人です。

  • コードを書く予定がない人
  • 数日で成果を出したい人
  • 日本語だけで学びたい人

よくある質問

Q. 本当に無料ですか?
公式サイトは「free forever」と書き、トークンの販売やコース販売、ゲート付きコンテンツはないとしています。ライセンスはMITです。

Q. 日本語で学べますか?
確認できた範囲では英語のみです。

Q. GPUは必要ですか?
環境構築レッスンでは任意とされ、ほとんどのレッスンはCPUで動くと書かれています。ただし、後半のフェーズの要件までは確認していません。重いレッスンに当たったら、Colabなどのクラウドも選択肢です。

Q. どこから始めればいいですか?
フェーズ0の環境構築レッスンです。そのあと、上の学習パスから目的に近いものを1つ選びます。

Q. 全部やるとどれくらいかかりますか?
READMEは約342時間と書いています。学習パスなら、ガイド付きレッスンだけで9〜15時間台です。自分のプロジェクトや復習の時間は別に必要です。

まとめ

AI Engineering from Scratchが合うかは、次の3点で判断できます。

  • 何かの言語でコードが書ける
  • APIを呼ぶだけでなく、中身を自分で組んでみたい
  • 英語の技術文書に抵抗がない

3つとも当てはまるなら、環境構築レッスンの約45分とverify.pyの実行までを最初の目標にして試せます。続けるか決めるのは、そこからで十分です。

レッスン数や所要時間は更新で変わります。始める前に、公式サイトとGitHubで最新の数字を確認してください。

参考情報