国産LLM「源内」始動、NTTデータ・富士通・PFNが稼働

「源内」とは何か
「源内」は、全39府省庁・外局等に所属する政府職員約18万人が利用できる、行政向けの生成AI基盤です。2026年7月時点では、米AWSの「Nova Lite」や米Anthropicの「Claude Haiku 4.5」「Claude Sonnet 4.6」「Claude Opus 4.8」など海外4モデルを職員が選んで使える体制になっています。これに加えて、デジタル庁は国内5社が開発したLLMの試行利用も源内上で進めています。
2026年7月10日発表の中身
そもそもの出発点は2026年3月6日にさかのぼります。デジタル庁はこの日、源内で試用する国産LLMとして15件の応募から7モデルを選定したと発表しました。NTTデータ・富士通・PFNに加え、KDDIとELYZAの共同応募体による「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」、ソフトバンクの「Sarashina2 mini」、NECの「cotomi v3」、カスタマークラウドの「CC Gov-LLM」が名を連ねています。今回の発表は、この7モデルのうち3モデルについて、稼働基盤(さくらのクラウド)と時期が具体化した、という位置づけです。
なぜ海外モデルでなく国産LLMなのか
国産LLMが選ばれる理由は、性能の高さだけではありません。行政という利用シーンならではの事情があります。
データ主権
行政が扱う情報の中には、外交・安全保障・個人情報など、国外のサーバーやサービスに預けること自体がリスクになり得るデータが含まれます。国産クラウド・国産LLMで完結する仕組みであれば、データがどの国の法制度の下で扱われるかが明確になり、この種の懸念に対応しやすくなります。
機密性・セキュリティ
オンプレミス環境や国内データセンターで動かせるモデルは、外部ネットワークを経由せずに機密文書を処理できる場合があります。今回のPFN「PLaMo Translate」がオンプレミス対応をうたっているように、機密性の高い行政文書を扱う業務との相性が意識されている点も特徴です。
コスト・価格競争力
海外の大手AIベンダー数社に調達が集中すると、価格交渉力は相手側に偏りがちです。国内に複数の選択肢があれば、価格やライセンス条件を比較検討できる余地が生まれます。デジタル庁が1社に絞らず7モデルを並行選定しているのも、特定ベンダーへの依存を避け、比較可能性を残す狙いがあるとみられます。
選定された国産LLM7社、それぞれの立ち位置
7モデルは、開発アプローチによって大きく2つに分かれます。
フルスクラッチ開発型(既存の海外モデルをベースにせず、一から独自開発)
- NTTデータ「tsuzumi 2」
- PFN「PLaMo 2.0 Prime」
派生・追加学習型(海外モデル等をベースに日本語データで追加学習)
- KDDI・ELYZA「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」(Meta Llama 3.1ベース)
- ソフトバンク「Sarashina2 mini」
- NEC「cotomi v3」
- 富士通「Takane 32B」
デジタル庁の選定基準では、独自開発か派生モデルかそのものは問われていません。開発経緯や体制を具体的に説明できる「素性の明確さ」が重視されています。派生モデルであっても、ベースやライセンス関係を透明に説明できれば選定対象になり得るという点は、国産LLMを検討する企業にとっても参考になる考え方です。
個人・中小企業にとっての意味
行政の実証実験は、一見すると自社には関係のない話に見えるかもしれません。ただ、次の2点で中小企業にも波及していく可能性があります。
1つは、選択肢の広がりです。18万人規模の行政実証を経て、2027年1月に評価結果が公表され、2027年4月からは優れた成果を示したモデルの有償調達が始まる予定です。行政での実運用実績は、企業向けサービスとしての信頼性を裏づける材料にもなり得るため、中小企業が導入先を選ぶ際の判断材料が増えることが期待できます。
もう1つは、価格競争です。国産LLM各社が行政案件という大口の実績づくりの場を得ることで、企業向け料金プランの見直しにつながる可能性があります。実際にPFNは、旧バージョン比で大幅な価格改定を行ったと公表しています。海外モデル一択だった状況から、日本語処理やオンプレミス対応を軸に選べる国産の選択肢が増えれば、コストと機密性のバランスを取りやすくなります。
よくある質問
Q. 「源内」は民間企業も使えますか?
A. 現時点(2026年7月)では、源内は政府職員向けの基盤であり、民間企業が直接利用する仕組みではありません。ただし、2027年4月以降の有償調達を経て、各社のLLMが企業向けサービスとして展開される可能性はあります。
Q. 国産LLMは海外LLMより性能が高いのですか?
A. 一律に優れているとは言えません。日本語の敬語・専門用語の再現性や、オンプレミス運用のしやすさで国産LLMに強みがある一方、コーディングや多言語対応では海外LLMが選ばれる場面もあります。用途に応じた使い分けが実務的な方針として挙げられています。
Q. 今後のスケジュールは?
A. 2026年5月に大規模実証が始まり、8月から国産LLMの試用が本格化します。2027年1月に評価結果が一部公表され、2027年4月から優れたモデルの有償調達が始まる計画です。
まとめ
2026年7月10日の発表は、3月に選定された国産LLM7モデルのうち、NTTデータ・富士通・PFNの3モデルが「さくらのクラウド」という国産基盤の上で具体的に動き出す、という一歩です。データ主権・機密性・コストという行政ならではの事情から生まれた動きですが、価格競争や選択肢の広がりという形で、いずれ中小企業や個人の実務にも波及していく可能性があります。今後は2026年8月の稼働開始と、2027年1月の評価結果公表が注目のタイミングになります。
※本記事の情報は執筆時点(2026年7月)のものです。スケジュールや対象モデルは今後変更される可能性があるため、最新情報はデジタル庁の公式発表をご確認ください。




